「犬の咬みグセ解決塾」

下記の纏めは、奥田先生の「犬の咬みグセ解決塾」から、ポイントを抜き出して記述したものです。

著者:ぎふ動物行動クリニック院長(獣医行動診療科認定医) 奥田 順之 先生

1) 獣医臨床行動学では問題行動の診断の際には、先ずは身体疾患の除外から入ることを前提としている (皮膚のかゆみ、外耳炎の不快感、胃腸の不快感、関節の疾患による慢性的な痛み、甲状腺機能低下副腎皮質機能亢進症等のホルモンの異常、中毒、栄養不足等)

2)問題行動は、脳の機能が正常でない状態に陥っていることによることもある(てんかん、うつ病、 統合失調症、不安障害等)

3)犬の攻撃行動は、ほぼ必ず学習が関係している。そして、それは、犬は飼い主との相互関係の中で 学習する。飼い主の反応次第で、自分の行動を選択する。犬が攻撃的になった時の飼い主のリアクシ ョン次第で、攻撃行動が強化されていく。

4) 社会の中で、必要なことについては、犬が多少の苦痛を感じてもダメな事はダメと伝えていかなけれ ば、ヒトと犬が共生していくことはできない。 犬が嫌がると、唸ったり、歯を当てたりする事があるので、飼い主はそれが怖くなり、犬が嫌がる事は何でも避けていくという行動を繰り返してしまう。
  犬もストレスを感じることは、なんでも嫌がる素振りを見せればやめてもらえるため、次第に小さな 刺激でも嫌がるようになり、小さなストレスに過敏に反応するようになる。

5)犬は、犬自身が何かした時の飼い主のリアクションをじっと見てる。どうしたら、自分にとって面 白いことがおきるか、あるいは、嫌いなことをさけられるか、犬が自分だけで学ぶわけではなく、飼い主の反応を見て学習していく。問題行動の学習は後者の学習によって起きる。 飼い主が意図せず学習させたことによって、攻撃行動が強化されてしまう事は少なくない。

6)飼い主に対する攻撃行動は、飼い主にとっては困った行動ですが、その犬にとっては、自分の生存 を有利にするための行動だと判断している。

7)てんかんで特徴的な脳波を示す犬を「てんかん体質あり」とし、そのうち48頭に、抗てんかん薬と 行動療法を併用した結果、39頭において、問題行動が改善した。

8) 問題行動を考える時に、脳機能が正常なのか、異常なのか、その中間なのか推論を立てたうえで、 対応を考える必要がある。脳機能の異常が疑われる場合、トレーニングの前に、脳機能の異常に対す るケアを行っていく必要がある。

9)犬にとってストレスになるもので代表的なものに、撫でられる事がある。撫でられる事(5分以上) は、犬にとってストレスになる事が少なくない。

10) 攻撃行動の発現に深く関係する学習が恐怖条件づけである。これには、身体を触られる事、毛玉を 取ろうとして無理にブラシングしたことなどが恐怖反応として関連づいてしまう学習で、恐怖から逃れようとして飼い主を攻撃してくることが起きる。

11)問題行動が繰り返し発生している理由は、その行動によって、動物にとって良いことが起こってい るか、嫌なことを避けられているかのどちらかの結果がある。

12) 攻撃行動が起きる条件付け
    例えば、ブラシを掛けられると痛い事が起きると、ブラシ=痛い、怖いという刺激が繰り返し与えられているうちに、犬は嫌な事から逃げようとして噛みついてくる。これに対し、飼い主が「痛い」と言ったり、その行動を諦めるとそれが強化因子となって、ブラシを見ると、牙を見せる、唸るという行動に発展し、その行動を取ると、飼い主が諦めるため、行動が強化され、定着してしまう。

13)犬が防衛的な攻撃行動を繰り返している時、攻撃行動の負の強化の学習が働いている事が少なくな い。動機としては、ブラシング、抱っこ、首輪をつかむ等、何かをされることを避けるためであることが多く、唸る、噛むことでこれらが避けられる経験すると、攻撃行動の負の強化を起こす結果となる。

14)攻撃行動の負の強化は、一度覚えると多くの場面に応用されることになる。

15)犬にかまれることを回避するための飼い主の行動や、飼い主から嫌なことをされることを避けるた めの犬の行動を回避行動と呼ぶ。これは、嫌なことが起こる未来を予測させる刺激が提示されたときに、その嫌なことを避けるための行動である。この回避行動は相互に強化されていく(回避行動のスパイラル)ので、これが進んでいくと飼い主は犬に対して出来ることがどんどん減っていく。

16)回避行動のスパイラルから抜け出すには、先ず、攻撃行動を起こさない場面で円滑なコミュニケー ションを確立する事が大切。オスワリ、フセ、マテ、ハウス等の基本動作を飼い主の指示で確実に行えるようにし、安心できる関係性を作る。おやつなどの報酬を用いたトレーニングを行う事が重要となる。

17)次に、攻撃行動の対象となっている行動に関するトレーニングについては、それを行った時、牙を 見せる、唸る等の犬のストレスサインが見られたら、飼い主は、これまでのように回避するのではなく、別の第3の行動(例えばオスワリ)を指示し、犬がその行動が出来、飼い主がおやつなどの報酬を与えることで、犬は攻撃以外の方法で、ストレスから解放される行動の選択肢を学習する事が出来る。

18)犬が軽いストレスを克服できるようにしていくようなトレーニングを繰り返すことで、徐々に耐え られるストレスの範囲が広がり、攻撃行動を発生させるようなストレスに対しても強くなっていく。

19)攻撃行動に対する次の手段として、脱感作法、拮抗条件付け法を使用していく。脱感作とは、攻撃 行動を起こす刺激に対して、少しずつ暴露することで、感作を解いていく方法である。拮抗条件付け法とは、脱感作法に加えて、刺激の後に犬にとって快刺激(おやつ等)を与えて、馴らしてく方法です。

20) 「本気」咬みの治療法
・今まで普通に生活していて、攻撃するそぶりを見せたことがないのに、6歳になって急に噛むよう になったとか、噛む以外の行動の変化がある場合、特に身体疾患の関与に注意が必要である、 
・本当に、何のきっかけもなく攻撃行動が発生していることはほとんどない。犬がどのような理由か ら攻撃行動を発生させているか、詳しく調べてみる。攻撃行動の詳細を記述し、客観的にその状況を把握する事が、攻撃行動改善の第1歩である。 
・薬物療法としての選択肢:抗うつ作用のあるSSRI(フルオキセチン等)が最も汎用される。 
・おやつを使えばできる場合には、おやつを積極的に使う。足拭き等の場面で、4本で1個しか与え ないのは、NGである。
・ケージが人の多い所に設置されていると、それだけで落ち着いて休むことが出来ず、感情が高ぶる 機会が多くなり、唸る機会が多くなる。この場合、不快な環境からの自由が侵害された状態と言える。 
・今すぐ変えられるのは、犬の行動ではなく、飼い主の気持ちのほうである。共生のためには、時に 犬に我慢を強いることも必要である。変わるべきは先ずは飼い主の思い、飼い主の対応が変われば犬も状況に慣れてくる。